「昭君」(しょうくん)とは・・・
王昭君は、漢の政略結婚によって匈奴(きょうど・モンゴル高原、万里の長城地帯を中心に活躍した遊牧騎馬民族の国)の王に嫁がされた薄幸の女性である。運命の過酷さから、中国人はもとより、日本人にとっても同情の対象となってきた。
元帝の時代に父によって皇帝の後宮に捧げだされたが、その寵愛を得ることはなかった。
漢は匈奴との親睦のために、女性を妃として差し出すことになり、後宮から誰を送るのが相応しいか選ぶことになった。
「元帝は、一番醜い女を選ぶつもりだ」という噂が流れ、匈奴に行かされる事を恐れた女たち は、似顔絵師に賄賂を贈り自分を美しく描いてもらった。しかし、貧しくて、賄賂を贈る事が出来なかった昭君は醜く描かれてしまったのであった。
いざ、昭君が匈奴に送り出されようという時に、元帝は初めて昭君を見てその美しさに感嘆し、深く悔いたといわれる。が、後の祭り、昭君は泣く泣く匈奴に嫁いだのである。
その後、匈奴の王、コカンヤゼンウが亡くなると、当時の匈奴の習慣に従い、義理の息子の妻にさせられ二女をもうけた。 これは、漢民族においては、大変不道徳な事と見なされていたので、昭君は深い嘆きと恥の思いにさいなまれた。これが、昭君の悲劇として語り継がれている。
能ではこれを、昭君の父(白桃)、母の立場から描いている。
能「昭君」 あらすじ
落ち葉を掃き清める老夫婦。 尉(じょう)の名は白桃(はくとう)、姥(うば)の名は王母(おうぼ)。 その娘・昭君は胡国の王・呼韓耶単于(こかんやぜんう)の妃として召されていた。二人はその事を大変嘆き悲しんでいた。
同情した里人が慰めに行くと、二人は、一本の柳の木から離れようとしない。それは、昭君が旅立つ際、「私が胡国で死んでしまったならば、この柳も枯れてしまうでしょう」と言って植えていったものであった。
見れば早や、片枝が枯れ始めていた。昔、桃葉(とうよう)という人が、深く契った仙女の死後、彼女の形見の桃の花を鏡に映すと,仙女の姿が現れたというが、 昭君の柳を映せば、娘の姿が見えるかもしれぬ、と 白桃は鏡に向かって泣き崩れる。
願いが通じ、昭君の姿が鏡に映し出される。が、そこには王・コカンヤゼンウの恐ろしい姿も現れる。鬼の如き出で立ちに怯える二人。しかし、ゼンウは、鏡に映った鬼神のような恐ろしい自分の姿を恥じて消え失せ、昭君の美しい面影だけが残るのであった。