望月(もちづき)

獅子舞をベースにした仇討ち物語で、能としては珍しくシテの節謡が一か所のみで、会話の台詞しかありません。またシテが面を付けない直面物(ひためんもの)で、芝居的な要素が多い曲と言えます。
物語が分かり易く、獅子舞という見せ場があり、さらに子方が活躍するこの曲は初心者の方にもお楽しいただけると思います。

あらすじ

信濃国の住人安田荘司(やすだのしょうじ)友治(ともはる)は、従兄である望月秋長との口論の末殺害されてしまう。友治家は離散し、十三年の月日が流れた。家臣であった友房(ともふさ)は近江国守山で宿屋「甲屋(かぶとや)」を営んでいた。

ある日、弱々しい足取りの母子がやって来て一夜の宿を乞う。よく見ると、それは敵の目を逃れて旅に出ていた友治の妻子であった。友房は素性を明かし、三人は偶然の再会を喜びあう。
 一方、友治を殺害した罪で十三年間もの在京を強いられた望月は、都から故郷信濃へ帰る途中、「甲屋」に泊まりに来る。下人から聞き出し、ここに望月がいると知った友房は、これを敵討ちの好機であるとみて妻子にその旨を伝え、共に計画を立てる。
 友房は、望月の座敷へ当時流行の盲御前(めくらごぜ)に扮した妻を送り出し、帰郷の祝いにと酒を勧め、妻は曽我兄弟の敵討物語を謡う。続いて子の花若(はなわか)は八撥(やつばち)を打ち、友房自身も獅子舞を舞う。
やがて気分を良くした望月は酔いつぶれ、三人は「今こそ本望を遂げる時だ」と言い、望月を討ち取るのであった。