登場人物
シテ:景清 平家の武将で、かつては源平の合戦で数々の功績をあげ、悪七兵衛(あくしち びょうえ)と称えられた。 平家没後、源氏方に捕らえられ日向(宮崎)の国に流される。 源氏の繁栄を見ることを拒み、自らの目をえぐって盲目となり、乞食同然 の身となっていた。 ツレ:人丸 景清と熱田の遊女の間に生まれた子。娘であったため役に立たぬと鎌倉の 長者の家に預けられていたが、父を捜しにはるばる宮崎までやって来た。 トモ:人丸の従者 ワキ:里人
あらすじ
父を慕った娘人丸は、一人の供を従えて、鎌倉からはるばる宮崎の地にやって来る。
そのころ景清はわびしい庵の中に、門を閉ざして一人住む乞食同然の身であった。宮崎に着いた人丸は、辺りを尋ね回った末、古びた藁屋の中から何かつぶやく声が聞こえてくるのに気づき 景清のことを尋ねる。
すると、「そのような人のことは聞いたことはありますが、私は盲目ですから知りません。よそでお尋ねなさい。」と答える。
景清は、自分の娘の人丸である事に気づきながら、哀れな我が身を恥じ、わが子の行く末を案じて名乗らなかったのである。そこで、人丸と従者はいったん立ち去り、近くに住む里人に尋ねると、先ほどの庵に住む盲人こそが景清である、と教えられる。
再び庵に引き返し対面を乞うが、老い衰えて、乞食にまで身を落した自分の姿をわが子に見せまいと、応じてくれない。 しかし、里人のとりなしで親子の対面を果たす。
景清は、身を恥じつつも娘をやさしく抱き寄せる。泣き崩れる人丸。
やがて人丸は、屋島の合戦の話を聞かせてほしいと頼む。
景清は、三保谷(みほのや)と兜(かぶと)の錣(しころ=かぶとの縁に付いている部分)を引き合った武勇伝を語りはじめた。
語り終えた景清は、衰え果てた我が身の弔いを託し、娘を故郷へと帰すのであった。
みどころ
1、親子の対面 この話のメインであるが、実際には親子の対面という形式を利用して、景清が抱いてい る敗戦の無念さ、源氏への恨み、老い衰えていく我が身の空しさを吐露している。 2、屋島の戦語り 生きながら地獄の苦しみの日々を送っている景清の有様を現している。しかし、凛々しい武将の剛強な意思を今もなお持ち続ける景清を現わしている。 3、2通りの演出 景清の面(専用面)には2通りある。
- ○髭(ひげ)が有るもの・大口袴で床机(しょうぎ)に座る・・・・・ 威風を残した景清を強調
- ○髭(ひげ)がないもの・着流しで安座(床に座る) ・・・・・ 零落した様を強これを基本とするが、演者の好みで変わることもある。