あらすじ
紀州の道成寺では、釣り鐘を再興することになりました。住職は、訳あって女人禁制にするように、とお触れを出しますが、一人の白拍子の女が鐘の供養の舞を舞わせてほしいと寺男(能力〔のうりき〕)に頼み込み、供養の場に入り込みます。
女は独特の拍子を踏み、舞いながら鐘に近づき、ついに鐘を落としてその中に入ってしまいました。地響きに驚いた能力たちは、熱く煮えたぎって落ちている鐘を見つけ慌てて住職に知らせに行きます。ことの次第を聞いた住職は、この鐘にまつわる昔話を語り始めます。
かつて一人娘を持つ、真砂(まなご)の荘司(しょうじ)という者がいました。 その頃、毎年奥州から熊野へ参詣する若い山伏があって、その山伏は荘司のところを宿としていましたが、荘司は娘を可愛いがる余りに「あの客僧がお前の夫になる人だ」などと戯れごとを語り聞かせておりました。
幼心に娘は真に受け、山伏に想いを寄せるようになりました。成長した娘は、ある夜、泊まっている山伏のところへ行き、いつまで私を一人にしておかれるのですか。と言い寄ると、そんなことは思ってもいなかった山伏は驚き、逃げ出してしまいました。 山伏は日高川を渡り、最後に道成寺の釣鐘の中に隠れました。女は追いかけ、その強い執念は蛇体と化し、日高川をも渡り、道成寺に着きました。女は降ろされている釣鐘をあやしみ、その鐘に蛇体を七回り巻きつけ、鐘ごと男を執念で溶かし焼き尽くしてしまいました・・・。 その後、道成寺にはしばらく鐘が失われていたのです。
先程の白拍子はその女の怨霊であろうと、僧侶達は鐘に向かって祈祷し、鐘を引き上げることが出来ましたが、中からは蛇体に変身した女が現れます。争いの末、ついに祈り伏せられ蛇体は、日高川に飛び込み底深く姿を消していくのでした。